アジアインプラント学会発表 |
【研究報告:1】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
インプラント審美ゾーンへの新たなアプローチ
−セカンド・ラビリアル・プレート形成法− |
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上顎前歯部は、事故などのアクシデントによる歯牙歯折が発生しやすい部位であり、さらに歯折した歯は保存が不可能な場合が多いため、日常臨床においてはしばしばインプラント治療へ移行するケースが多い。歯列の中で、もっとも審美的要求度が高い上顎前歯部でのインプラント治療は、長期的にも安定した審美製が要求される。そのためのキーポイントとなるのが、「厚い頬側の骨壁(ラビアル・プレート)」である。 しかしながら多くの症例において、口蓋側の骨壁は薄い場合がほとんどであり、薄いだけでなく裂開しているケースに遭遇することも少なくない。 昨年のアジアインプラント学会において、Dr.Salamaは審美インプラントの重要点として、ラビアルプレートの厚みを1mm以上、できれば2oは確保したいと提言している。 近年、前歯部領域におけるインプラント治療を審美的に成功させるためには、薄いラビアルプレートをどのように厚く改善してインプラント埋入できるかがキーポイントとなっている。 今回イミディエートインプラントプレースメント(抜歯即時埋入インプラント)とボーンスプレッダーの応用により、「厚いラビアルプレート」を得る新しいテクニックを報告する。 |
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イミディエートインプラントプレースメント : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前歯部歯牙歯折症例において、しばしば行われるイミディエートインプラントプレースメントは、その利点として以下の2点が挙げられる。 1)抜歯後に起こる経時的に骨吸収を最小限に抑えられる。 2)治療期間の短縮と外科的侵襲の回数を軽減できる。 しかし、その反面では以下の2点が欠点として挙げられている。 1)抜歯窩における初期固定が困難。 2)感染の問題
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ボーンスプレッダー : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
インプラントを埋入するためにインプラント床の形成は、当然のことながら数種のドリルによる骨の削除という方法で行われてきました。しかしながら、骨は「削ってしまえばなくなるもの」である。貴重な骨を削除することなく、圧縮や移動によって、骨のボリュームを拡大しながら、インプラント床のスペースを確保することができれば、それに勝る方法はないと考えられる。 ボーンスプレッダーは、図Bのほうに骨幅の狭い症例において、骨幅を拡大しながらインプラントを埋入するために使用する。 図 B : ボーンスプレッダー の概念 さらにDV、DWのポーラスな骨質をボーンコンデンスして緻密に改造していく利点もある。手順の概要としては、まずは狭い骨頂にラウンドバーやガイドドリルなどで起始点をつけ、スレッド状の器具をラウンドドライバーかラチェットにて回転させながら骨内に圧入し、骨を拡げていく。その後は、細く器具から太い器具へ順を追って移行し、削らずにインプラント床を形成する。これにより、骨は「削るものではなく寄せる」という概念が確立されたのではないかと感じている。 |
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術式 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1)頬骨側・口蓋側ともに傷つけないように注意して抜歯を行う。特に頬側の骨は薄い場合が多く(矢印)、注意を要する。 2)抜歯窩口蓋側内壁の骨頂より1.5〜2.0o程度内方にラウンドバー(小)にて起始点をつけ、ガイドドリルにてパイロットホールを形成する。 3)ボーンスプレッダーによって、骨幅を拡大しつつ、インプラント床の形成を行う。 4)ボーンスプレッダーのサイズを徐々に太くする。 5)セカンドラビアルプレート(矢印)の形成。 6)インプラント埋入(インプラント形状はルートフォームが望ましい)。 7)骨補填材の埋入。 8)厚いラビアルプレートの確保および獲得。
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症例患者:63歳男性 主訴:自転車事故による歯牙歯折 既往歴:なし 特記事項:なし | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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セカンドラビアルプレートの意義 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
骨を造るためには、できるだけ造成空間が狭い空隙で、なるべく多くの骨壁に囲まれたほうが有利であるということはいうまでもない。 セカンドラビアルプレートの形成は、これらの条件を満たし骨形成に有利な環境を作ることができる。
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適応症 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本法は口蓋側の骨を唇側に寄せることにより、よりよい環境にて唇側の骨を造成させ、長期的に安定したインプラント審美補綴を実現させる方法である。そのため口蓋側の骨に厚みが在ることが条件となる。従って、口蓋側に骨幅のある症例が適応となる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
結論 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前歯部のイミディエートインプラントプレースメントにおいて、ボーンスプレッダーによるセカンドラビアルプレートの形成は、頬側骨の厚みをコントロールしやすく、インプラントの審美補綴に有効であると考えられた。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
おわりに : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
筆者は臨床医として患者の侵襲の少ない、比較的簡便な方法でよりよい結果が得られる手術を目指してきた。患者の利益は、術者の利益でもあると考えたからである。 ボーンスプレッダーによるセカンドラビアルプレート形成法は、術式が単純で患者への侵襲も少ない方法である。これにより、インプラント審美補綴をより優位にすすめられることは、筆者の本望ととするところである。新案であるこの方法は、長期的予後観察がなく、まだエビデンスが確立されていない方法ではあるが、今後は臨床における長期的エビデンスを蓄積することで、インプラント治療の一助になればと考えている。 |
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謝辞 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今回の報告に際し、多大なる支援とともに多方面からのアドバイスをいただいた日本インプラント臨床研究会の井汲会長、大田先生、田中譲治先生に深く感謝の意を表します。 |
『日本インプラント学会』にて発表 2006.09 |
【研究報告:2】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<オステオプッシング法による新しいソケットリフトの術式> 〜槌打法から圧迫・圧接により押進法へ〜 |
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我々臨床家にとって、患者が受ける手術の浸襲は大きなマイナスポイントといえる。
そのため、過去から現在に至るまで患者の浸襲が少なく、かつ効果的な手術法が開発されてきた。特に上顎臼歯部での骨吸収が著しい症例では、患者浸襲の大きいラテラルウォールアプローチのサイナスリフトに対して、簡便でダメージの少ないオステオトームによるソケットリフト法が、より臨床家に好まれ、多くの臨床で応用されている。
ソケットリフト法は盲目的な方法であるがゆえ批判的な意見もあるが、簡便で低浸襲という実用性から、多くの臨床家に支持されているのも確かである。
近年、オステオトーム法を習得し、頻繁に上顎臼歯部症例を手がけている臨床家も増えてきているが、オステオトーム法を経験すればするほど、患者の多くがその手法に不快感を抱いていることに気付かされる。 オステオトームによる槌打ちは骨の柔らかい場合は問題ないが、骨が硬く、特に上顎洞底皮質骨が硬い場合には、かなりの衝撃を患者に与えることになる。 「先生、また打つのですか?」と声に出し言われなくても、そう思われている場合が多いのではないだろうか。 そこで、オステオトームによるいわゆる「槌打法」ではなく、回転力を推進力に変え、骨を押していく「オステオプッシング法」を紹介したい。 |
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オステオプッシング法とオステオトーム法の比較 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
従来のオステオトーム法では、上顎洞底の1o手前までドリルによる切削を行い、オステオトームにて槌打し、上顎洞底皮質骨を若木骨折させる(図A-a)。
その際、硬い上顎洞底皮質骨を骨折させるにもかかわらず、シュナイダー膜を損傷させないことが必要となる。
熟練した術者ならかなり高い確率でそれを行うことができるが、初めての術者にはややハードルが高い。
そのため、ソケットリフトを応用した上顎臼歯部のインプラントに対して二の足を踏んでいる場合もあるはずである。
それに対してオステオプッシング法は、槌打感や骨折の有無を経験に頼ることなく、ラチェットの回転によって上顎洞底皮質骨を若木骨折させることができる(図A-b)。
かつ槌打と比較して患者の不快感が少ないという利点がある。
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オステオプッシング法の原理 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
オステオプッシング法は回転する力を垂直方向に変換させ、その力で歯槽骨内を押し進みながらインプラント床を形成し、さらに上顎洞底皮質骨を貫通するという考え方である。
この回転力を垂直方向への推進力に変えるために、「オステオプッシャー」が開発された(図B)。
オステオプッシャーは、2つのスクリューによって回転力を推進力に変換する。
1つは根尖側スクリューである。
根尖側スクリューは、歯槽骨をセルフタップしながら推進力を得ることができる(図C)。
ただし、この力は歯槽骨の厚みがないと得ることができない。
歯槽骨の厚みが7o〜8o程度あれば、この根尖側スクリューの力のみで上顎洞底皮質骨を貫通させることができる。
2つ目は歯冠側のスクリューである。
ステントにプッシャーガイド(雌ネジ)を固定し(図D)、そこに嵌合させた歯冠側スクリューを回転させることによって垂直方向へ推進力を得るのである(図E)。
つまり回転力は、オステオプッシャーを押し進ませる力となると同時にステントを歯冠側へ押し出す反作用の力にもなる。
よってステントに力がかかっても脱落しないように残存歯にしっかり固定させることが重要である。
オステオプッシャーはこの2つのスクリュー(根尖側、歯冠側)によって回転力を推進力に変換し、骨をプッシング(押していく)のである。
そして、上顎洞底皮質骨をプッシュして貫通させても、その先端形状のためシュナイダー膜を傷つけずに挙上が可能なのである。
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ステントの固定について : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
オステオプッシング時には、オステオプッシャーの推進力に対して反作用的にステントに力がかかるため、いかに強固にステントを固定させるかが成功のカギとなる。
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オステオプッシング法の術式: | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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症例:右上7部遊離端欠損症例にオステオプッシャーを応用したケースを紹介 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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考察及び結論 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今まで上顎洞底部を挙上する術式として、様々な手法が考案され行われてきた(表1)。 特に歯槽骨のアプローチによる上顎洞底挙上術では、上顎洞底皮質骨を貫通(骨折)させて、シュナイダー膜を無傷で挙上スペースに移植材(自家骨、骨補填材)を填入する必要がある。 従来は、洞底皮質骨を貫通させる方法として切削や槌打が行われてきたが、本法は洞底皮質骨を徐々に圧迫・圧接しながら若木骨折を怠起させるという方法を採用している。 従来の切削や槌打は、勢いがあるためにシュナイダー膜を傷つけたり穿孔させやすいという欠点があったが、オステオプッシング法はラチェットでゆっくりと力を加えながら洞底皮質骨を押していくので、危険を伴うような勢いがなく、術者のミスによるシュナイダー膜の穿孔や洞内への貫通を防ぐことができる。 これまでは、ボーンスプレッダーのような器具を用いて、洞底皮質骨を押し砕くという試みも事項していたのだが、皮質骨を押し砕くだけの推進力の確保が困難であったのが現実である。 本法の登場によって、従来の「切削」、「槌打」に対して骨を「プッシュ」するという当たらし概念ができたといえる。 オステオプッシュ法は、ステントの工夫しだいでさまざまな症例において応用のきく方法である。事前のステントの準備さえしっかりしていれば、手術は安全で確実に行える方法である。 逆を言えば、ステントの準備が大切であり、手術の成否を決めるものであるといえる。 様々な症例に対するステントの準備については、今後さらに報告を行いたいが、本稿で報告した臨床応用においても、臨床的有用性は十分に高いと考えている。 筆者は、一人でも多くの臨床家に本法を採用していただき、より安全で確実なソケットリフトの術式をたいかんしていただければと希望を抱いている。 本法はまだエビデンスの低い新法ではあるが、今後の発展に期待していただきたい。 |
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おわりに : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
筆者は患者に対して、いかに負担を与えないということを第一に考え試行錯誤を繰り返し、最良な結果が得られる手術を目指してきた。 患者の利益は、術者の利益でもあると考えているからである。 オステオプッシャーによるオステオプッシング法は、術者にとっては難しいテクニックを必要とせずに、上顎洞底挙上術を併用したインプンラント手術が行え、患者にとっても術中の衝撃や浸襲が少ない方法である。 これにより、インプラント手術というものが臨床の中で、よりセーフィティーでよりイージーなものとなることは、筆者の本望とすることである。 |
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謝辞 : | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
今回のオステオプッシャー開発において、全面的に協力と支援をしてくださっプラトンジャパンの神蔵社長、福田氏、松本氏に深く感謝の意を表します。 |
(1)2006年6月発売のインプラントジャーナルで、 私の考案した審美インプラントの新しい手術法を紹介しています。 |
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この手術法は9月の「日本インプラント学会」でも発表する予定です。興味のある先生は是非講聴してください。(演題番号10101) さらに、この「セカンドラビアルプレート形成法」の専用キットと手術法のDVDの発売も予定されています。また年内にこの内容を詳しく説明する講演も予定されているので、後日お知らせできると思います。 |
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(2)インプラント希望の患者さんの紹介について | |||||
特に、 (1)インプラントをしたいけど怖くて迷っている人 (2)前歯の歯根破折症例 (3)上顎臼歯で骨が薄くサイナスをあげたいが怖いという人 (4)歯周病での口腔内崩壊症例 (5)歯槽骨吸収による難症例 などをご紹介下さい。 患者さんを当院に紹介する際、できれば、 「* 1 インプラントの部分的な治療を紹介する」のか 「* 2 インプラントも含めて全体的な患者さんの紹介」なのかわかるように 紹介状に明記して下さい。 |
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(3)サイナスリフトの新しいテクニックの発表が近々あります。 | |||||
インプラントジャーナル9月号でサイナスリフトの新しい手術方法を紹介します。オステオプッシャーという私が考案して特許をとった新しい器具を使います。この方法によって、今まで上顎の臼歯部でサイナスを上げる時、患者さんにかなりのダメージを与えていたのが、とても簡単に手術ができ、患者さんも術者もとても楽です。
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(4)学会報告 | |||||
2006年9月の日本インプラント学会にて、学会発表。 「新しく画期的な方法」と多くの先生に賞賛していただき、大変ありがとうございました。この方法は適応症も多く、今後の発展にご期待ください。 |